人工林をシカから守る |
写真は夏毛のメス夏毛ではオス、メスとも白い斑点があります。 |
■ニホンジカ(シカ)とはどんな動物? シカはベトナムから沿海州にいたる東アジア沿岸にすみ、日本には北海道から沖縄県まで、多雪地方を除く広い範囲にすんでいます。 オスは1才頃から枝分かれのない角が生えはじめ、2才頃から枝分かれがはじまります。3~4才以上からは3つに枝分かれし、先端が4つある角(写真上左) になります。角は毎年春に落ち、柔らかい袋角がはえ、夏の終わり頃には立派な角になります。 9~11月頃が発情期で、この時期オスは「ミュウウーン」または「ブヒィヨー」と聞こえる特有の声で鳴きます。強いオスは、多くのメスを囲う一夫多妻の繁 殖を行います。メスは満2才から毎年出産し、妊娠期間は約8カ月で、5~6月頃に普通1仔を産みます。 生まれた子供は1才まで母親とくらし、「母親・前年に生まれた子供・その年に生まれた子供」の3頭でいる場合が多く、オスは普通単独で行動しています。 ■福岡県の分布状況 福岡県では、三郡山地、古処山地、英彦山地などに分布しています。平成11・12年度の調査で、三郡山地の犬鳴山周辺に約1,800頭、古処山地から英彦山地にかけて約11,600頭がすんでいると推定されています。 ■シカによる被害 シカによる人工林への被害は、枝葉の食害、樹皮の食害、樹皮の剥皮害および踏み倒しなどで、植裁直後から伐採まで長い期間におよびます。 福岡県では、主に枝葉の食害と樹皮の剥皮害が発生しています。 |
(1) 枝葉の食害(写真下2,3) 福岡県にすむシカは、スギやヒノキを1年中食べ、特に春から初夏にかけてたくさん食べるという特長を持っています。このため、植裁直後の木では、葉のほと んどが食べられる激しい被害も発生します。また、繰り返し食べられた木は盆栽状になって、成林が望めなくなります。 (2) 樹皮の被害(写真下4) シカの発情期にある9~11月頃、オスは木の幹に角をこすりつける行動を盛んに行うようになり、木の樹皮をはがします。木が枯れることはほとんどありませんが、材に腐れや変色がおき、材質が大きく低下します。 |
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2:葉のほとんどが食べられた被害 見やすいようにペンキを塗布 |
3:シカが食べた痕 シカには上あごに前歯がないため、引きちぎったようになります。 |
4:樹皮の剥皮害 材表面に角の痕が残ります。 |
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■被害防止対策 シカによる人工林への被害は、木の大きさや原因が多様なため、防除には様々な方法が考案されています。 (1) 被害発生場所 被害は地域的にまとまって発生し、造林予定地の1km以内に被害地がある場合は、被害を受ける危険性が非常に高くなります。 特に葉のほとんどが食べられる激しい被害が発生していれば、何らからの防除対策を行う必要があります。 (2) シカの数の管理 被害はシカの数が多い地域ほど激しくなっています。このため、福岡県ではメスジカの捕獲を推進し、シカの数を減らす事業を平成13年度から行っています。 (3) 枝葉の食害防除 造林地を柵で囲う防護柵と1本ずつ木を資材で囲うシェルター型があります。 防護柵には、ナイロンネット、ステンレス線入りネット、金網および木材があります。1カ所でも破損すると柵内全体の木が被害を受ける危険性があります。 シェルター型にはプラスチック、ナイロンネットおよび生分解性ネットなどがあり、資材の破損した木のみ被害を受けるだけですが、資材費が1本あたり600~800円と高価になります。 (4) 樹皮の剥皮害防除 木の幹に枝打ちされた枝、荒縄や針金などを巻き付けることで、被害を90%以上減らすことができます。他に、格子状ネットなど商品化されているものもあります。 |
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ネットを使用した防護柵 |
シェルター型の一例 |
ネット巻き付けの一例 |
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■防除施工のポイント (1) 防護柵 防護柵内へシカが侵入する主な原因には、「ネットと地面の間のすき間」、「柵高の不足」、「ネットの破損」があります。
a. |
ネットと地面の間のすき間 |
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最も多い侵入場所である、すき間ができる主な原因は、ネットを抑える杭が抜けるためです。杭の打ち方や資材を工夫したり、ネット下部に枝条を棚積みすることが有効です。ネットを70cm程度地面にはわせる方法も効果的です。 |
b. |
柵高の不足 |
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シカは高さ150cm以上の柵を跳び越えた例があり、跳躍力に優れています。斜面の上からは簡単に飛び越えるので、柵の高さは180cm程度必要です。 |
c. |
ネットの破損 |
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倒木による防護柵の破損が多いので、倒れる危険性がある木は、柵設置時にあらかじめ伐採しておくことが大切です。 動物によるネットのかみ切り破損もみられ、使用済み海苔網は塩分が含まれているため、かみ切りが多く発生します。また、シカが網にからんで破損することも多く、シカ用防護柵としては不向きです。 金網製や木製の防護柵は、資材重量が重いのですが、かみ切られることによる侵入が少ないのが利点です。 |
(2) シェルター型 このタイプは、資材を1~2本の支柱で支えています。このため、石が多い場所や風当たりの強い場所には不向きです。価格が高いため、成長後は資材を樹脂剥皮害防除として利用したいものです。 (3) メンテナンス 破損した防除資材を速やかに補修することが、防除対策では最も大切なことです。 森林所有者の皆さん、資材設置後は必ず見回りに行きましょう。 |